LGBTs Q&A
婚姻
交際している同性のパートナーと結婚したいのですが、役所で婚姻届を受け取ってもらえません。同性婚は、法律ではどうなっているのですか。
現在の日本では、民法が、異性婚のみを想定しており、残念ながら、同性間の法律上の婚姻制度が整備されていません。
もっとも、憲法は、同性婚を否定しているわけではありません。「個人の尊重」を定める憲法13条において保障される自己決定権の1つとして、また、「法の下の平等」を定める憲法14条に照らし、同性婚制度をもうけることは、憲法に違反するものではありません(2015年2月16日付「同性婚と憲法24条の解釈に関する報道について[要請]LGBT支援法律家ネットワーク有志 参照)。なお、憲法24条が、「婚姻は、『両性』の合意のみに基づいて成立」すると規定していることから、憲法は男女間の婚姻しか認めていないとの考え方もあります。しかし、憲法24条の趣旨は、個人の意思よりも家制度を重視した戦前の日本の婚姻制度に対して、個人の意思を尊重して当事者の合意のみで婚姻できることとした点にあります。したがって、憲法24条は、婚姻を男女間のものに限ることを目的としたものではありませんから、同性婚が憲法24条に反するという考え方は誤った解釈です。
婚姻と同様の法的効果を得るには
私たち同性カップルの結びつきが、異性間の婚姻の場合と同じような法的な効果を得るためにはどうしたら良いのでしょうか。
2015年3月に、東京都渋谷区が同性カップルがパートナーシップ証明を受けられる条例を成立させる等、地方自治体の条例や要綱において、同性カップルの関係を証明する制度がつくられています。しかし、これらによって、法律上の婚姻の効果が得られるわけではありません。
そこで、同性カップルの結びつきが、法律上の婚姻と同じような効果を得るためには、既存の法的制度の利用を考えたり、パートナーとの契約で法律上の婚姻と類似の権利義務を定めたりすることが考えられます。日常の生活費の分担について定めておきたい、一方が病気になったときについて定めておきたい、相手に遺産を残したい、一方が浮気をしたら慰謝料請求できるようにしたい、別れる時の財産分与について定めておきたい、等、ご要望に応じて、法的な効果を得られるようにすることが可能です。
財産を残したい
私が死亡した時に、同性のパートナーに、私の財産を残したいのですが、どうしたらよいでしょうか。
人が死亡した時に、その人(被相続人)が自己の財産について特に何らかの手立てを講じなければ、その財産を相続するのは、生存している法律上の相続人です。例えば、あなたが死亡した際に、ご両親や法律上の配偶者がご存命の場合には、それらの方々が法律上の相続人であり、法律上、あなたのパートナーに、相続権はありません。
同性のパートナーに財産を残すためには、遺言書を作っておくこと、信託という仕組みを利用すること、養子縁組をしてパートナーを法律上の相続人にしておくこと、等のいくつかの方法が考えられます。もっとも、それぞれの方法に、メリット・デメリットや注意点等がありますので、弁護士や、税金の専門家に相談して、適切な方法を選択すると良いでしょう。
アウティング
悩んだ末に、思い切って、ある友人に、自分がゲイであることをカミングアウトしました。ところが、その友人が、私がゲイであることをばらすと言ってきました。その友人ならば理解してくれるかもしれないと思ってカミングアウトしたのです。親にも知られていないのに、他人にばらされてしまうことは本当に困ります。不安で仕方ありません。ばらされないためにはどうしたら良いでしょう。また、もしばらされてしまったら、何らかの法的手段はとれるのでしょうか。
本人が承諾していないのに、秘密にしてきた恋愛・性愛対象(性的指向)や心の性(性自認)を他人に知らせることは、アウティングと言って、基本的に違法行為にあたります。
本来、恋愛・性愛対象や心の性が何であろうと、個人の自由として尊重されるべきであって、他人がとやかくいう筋合いのものではありません。しかしながら、残念なことに、社会においては、未だ、LGBTsに対して、無理解や根強い偏見が存在し、カミングアウトすることは非常に勇気のいる状況です。このような状況下においては、恋愛・性愛対象や心の性は、個人のプライバシー権の問題として保護されなければなりません。したがって、勝手に、本人が秘密にしてきた恋愛・性愛対象や心の性をばらすことは、プライバシー権の侵害として、民事上の不法行為にあたります。
また、アウティングの態様によっては、名誉毀損罪や脅迫罪といった犯罪行為にあたる場合もあります。
アウティングを阻止するためには、弁護士が代理人となって相手にその違法性を知らせて警告する等、弁護士による対処が有効的な場合が多いです。
また、既にアウティングされてしまった場合は、損害賠償請求や、刑事告訴、インターネット上の書き込み削除の仮処分等の対応が考えられます。
DV
同棲している同性の恋人から、暴力を受けています。同性同士でもDV防止法で保護されますか。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)は、配偶者・元配偶者や生活の本拠を共にする交際相手・元交際相手からの暴力又は暴力に準ずる心身に有害を及ぼす言動を対象としています。同性間における暴力等でも、DVにあたるはずですし、同性間では交際自体を秘密にしている等によって、異性間の場合よりも周囲に助けを求めづらく、被害がより深刻になりえます。
同性間の場合にも、DV防止法による保護命令(6ヶ月間の接近禁止等)が発令されたことがあります。しかし、男女間に限るとの解釈も主張されています。
そこで、後記のとおり、ストーカー規制法による対処も考えられます。
また、弁護士が代理人となって相手にその違法性を知らせて警告する等、弁護士による対処も考えられます。
暴力は、相手方との関係性に関わらず刑法上の犯罪ですから、身の危険が迫っている時には、まずは警察を呼びましょう。
ストーカー被害
同性の知人に交際を申し込まれましたが、お断りしました。しかし、その後も、SNS等で、何度も交際を迫ってきました。無視していたところ、職場の近くで待ち伏せされ、「お前、無視しやがってふざけんな!」といきなり怒鳴られました。同性間でも、ストーカー規制法は適用されますか。
同性間でも、ストーカー規制法は適用されます。
ストーカー規制法は、特定の人に対する恋愛感情その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の人又はその家族などに対する「つきまとい等」にあたる行為を規制しています。
警察は、「つきまとい等」を繰り返している相手方に対し、ストーカー行為をやめるよう警告することができます。また、警告に従わず、さらに相手方がつきまとい等をした場合は、公安委員会がストーカー行為について禁止命令を行うことができます。この禁止命令に違反してストーカー行為をすると、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科されます。
また、警告の申出以外に、告訴によって処罰を求めることもできます。この場合、罰則は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
被害が拡大する前に、早めに警察に、相談しましょう。相手が送ってきたメッセージ等は、つきまとい等の証拠になりますので、残しておきましょう。また、弁護士が代理人となって相手にその違法性を知らせて警告する等、弁護士による対処も考えられます。
トイレ
私は、戸籍上は男性ですが、心の性(性自認)は女性です。したがって、外出時に、女子トイレを使いたいのですが、問題ありませんか。
事前の対策をおすすめします。
自分の性についての認識は、人間の根幹にかかわるものですから、本来の心の性のトイレを使いたいと思うのは自然な気持ちです。しかし、以下の点に注意する必要があります。
心の性、戸籍ともに男性である人が女子トイレに入る場合、正当な理由がない場合は建造物侵入罪にあたります。したがって、あなたが女子トイレに入ったときに、痴漢や盗撮目的等正当な理由がないと勘違いされて通報され、逮捕されてしまう可能性もあります。このような事態にならないよう、ホルモン治療を受けていることがわかる資料や、性同一性障害との診断書を持ち歩き、いざとなった時に、正当な理由のあることを説明できるようにしておくことが、ご自身を守るために必要と思われます。
もし、逮捕されてしまった場合は、「当番弁護士」を呼ぶことができます。当番弁護士の制度は、弁護士が1回無料で逮捕された人に面会に行く制度です。面会した弁護士は、逮捕された人の疑問に答え、逮捕された人に保障されている権利の説明や、今後の手続きの流れを説明します。速やかに、警察官に対し、当番弁護士を呼ぶように言いましょう。
職場
戸籍上の性別(男性)で就活をして今の会社に就職したのですが、心の性(性自認)は女性なので、女性の服装で出勤したり、女子トイレを使用したいです。もしそうした場合、解雇されてしまわないでしょうか。
解雇は、「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が認められなければ、権利濫用により無効です(労働契約法16条)。
戸籍上の性別をふまえた服装で働かないことだけを理由に解雇される可能性は低いです。過去の裁判例では、女性の服装で勤務しようとした労働者を解雇したことについて、その労働者を就労させることが企業秩序や業務遂行に著しい支障をきたすとは認められないとして、無効と判断した例もあります(東京地決平成14.6.20 労判830号13頁)。
女子トイレの利用については、他の従業員との調整が必要なので、会社に対し、理解と対処を求めることが必要です。
戸籍名の変更
私は戸籍上は女性ですが、心の性(性自認)は男性です。戸籍名は、女性っぽい名前なので、とても違和感があり、変更したいです。戸籍上、名を変えることはできますか。
戸籍上の名を変更するには、まず、家庭裁判所の許可が必要です。家庭裁判所に対し、名の変更をしようとする人(15歳未満のときは、その法定代理人が代理します。)による申立てが必要です。家庭裁判所の裁判官が、「正当な事由」があると判断すれば、戸籍上の名を変更することができます。「正当な事由」とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障をきたす場合をいい、単なる個人的趣味、感情、信仰上の希望等のみでは足りないとされています。
あなたの「正当な事由」としては、普段から変更後の名を通称使用していること、性同一性障害との診断を受けていること、戸籍名の使用がとても苦痛であり実際に精神状態が悪化すること等が考えられます。
そして、家庭裁判所の許可を得た後に、本籍地又は住所地の市区町村役場に名の変更の届出をすることが必要です。届出にあたっては裁判官の許可を示した審判書謄本のほか、戸籍謄本などの提出を求められることがあります。
戸籍上の性別の変更
私は、戸籍上は男性ですが、心の性(性自認)は女性です。戸籍上の性別を変えることはできますか。
戸籍上の性別を変更するには、性別の取扱いの変更を求める本人が、家庭裁判所に、性別の取扱いの変更の審判を申し立てる必要があります。性同一性障害者特例法の条件を満たす必要があり、以下の6つの要件のいずれにも該当する人に限り、家庭裁判所は、性別の取扱いの変更の審判をすることができます。
1.二人以上の医師により、性同一性障害であることが診断されていること
2.20歳以上であること
3.現に婚姻をしていないこと
4.現に未成年の子がいないこと
5.生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
6.他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること
申立ての後、必要に応じて、家庭裁判所調査官による調査を行ったり、裁判官が本人に直接事情を聴いたりします。
性別の変更は、現状の日本においては、上記のように、見た目の手術をしなければならない等、厳しい条件をクリアする必要があります。
なお、全てのトランスジェンダーがそのような手術を望むものではないし、望んだとしても経済的な事情で簡単にできるものではありませんから、戸籍上の性別の変更に至っていない方も多いのが現状です。
終わりに
セクシャルマイノリティに関する問題は、以上に取り上げたものにとどまらず、実に様々です。
あなたの悩みが、法的に解決できるものかどうかわからない場合でも、まずはご相談下さい。当然ですが、ご相談内容の秘密は守られます。